巫女の予言と云うもの

 忙しかった三月がまもなく終わる.
 ふと,横を見る……
 読み終わってから長いこと置きっ放しの本があった.

オージンのいる風景―オージン教とエッダ

オージンのいる風景―オージン教とエッダ

 2007年12月12日に書いた,北欧の古代宗教のことを調べるために読んだ本なのだが,やはり儀式の焚き火のことは解らなかった.


 そりゃそーだ,タイトルで食いついたものの,中を読んでみれば古ノルウェーアイスランドの伝統や「巫女の予言」*1という古代の北欧の神々を著した詩についての考察なんだから.

 最初にその主題の「巫女の予言」*2の翻訳があって,その12節(P.14)にこんなのがある.

ヴェイクとガンダールヴ
ヴィンダールヴ、スラーイン
セックとソリン
(中略)
いまやわたしは正しく
―― レギンスとラーズスヴィズ ――
ドヴェルグ*3たちを数えあげた。

 今まで"ホビットの冒険"や"指輪物語"の登場するガンダルフの元ネタってどのあたりかと思ってたんだが,出典の地域も近いしこれかな?っと.
 スペルがGandálfr (魔法の心得のある妖精)*4で,gandr(杖=呪術)+álfr(妖精)なんだから当たりだろう.*5
 そう,その名も魔法の妖精 ガンダルフなんて考えたが,ノームを想像してがっかり.


 そういえば,昔は…友人からの示唆だが…インドの神話のガンダルヴァ*6の音が近いなと思ったりしたなぁ.


 ところで,第三章 巫女の用語法(P.92-93)にこんなの文章がある.

 ‘völva’「巫女、予言者、女妖術師、魔女」(女性名詞、複数形‘völur’)という語は、‘völr’「棒,杖」(男性名詞,複数形‘velir’から派生している。(略)

 続けて,ラテン語のvolvaは子宮や母胎を意味し,古ノルド語のvölsiが男根を意味したことが書かれているが,確かに興味深い.生殖器を指す語が時代や地域を経て派生したのだろうか?

 また「幸福の杖」(Högnuðr)と名づけられた杖の紹介があって,続けて↓

「呪術の杖」を表すもう一つの語は‘gandr’で,(略) しかしながら,‘gandr’の語源はあきらかでないうえ、論争のもとである(2)。

 とあり,その注釈(2)の解説(P.112)にこんなのがある.

‘gandr’の派生語には、「巫女の予言」三十節に登場するヴァルキュリャの名前ゴンドゥル Göndull(女性名詞)、オージンの数ある名前の一つゴンドリル Göndlir(男性名詞)、そして、‘göndull’「ペニス」(男性名詞)が含まれている。「呪的騎行」を表す語‘gandreið’は諸サガに見受けられる。

 こちらも男性名詞と女性名詞,それから生殖器に派生している.


 これ読むとやっぱり魔女の原型はこの辺だなぁ,と思う.


 さて,返却期限が31日だから,忘れずに返してこよう.

追記 2008-03-30

 もうちょい気になってた語があるので,追記しておく.


 グラーシーザ Grásiða ("灰色の脇腹"の意)という,「…手にして闘う者は必ず勝利を得るという性質が備わっている…」(P.199)という剣が登場する.
 えーと,勝利を約束された剣?


 しかし,この剣は強い一撃を放ったために折れちゃうんだけどね.

*1:Völuspá

*2:ヘルマン・パウルソン 校訂/菅原邦城 訳

*3:侏儒.Dvergr.P.76を参照

*4:北欧神話の事典 in ゆぐどらしる

*5:と思ってたら,Wikipedia(en)に似た記述があった.みんな同じことを考えるのね.

*6:仏教では乾闥婆王って天龍八部衆の一柱